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大阪地方裁判所 平成7年(ヨ)407号 決定

債権者

畑幸子

債務者

南海サウスタワーホテル株式会社

右代表者代表取締役

本田龍三

右代理人弁護士

藤原弘朗

主文

一  本件申立を却下する。

二  申立費用は債権者の負担とする。

理由

第一申立の趣旨

債権者が債務者の衣装室に勤務する義務のないことを仮に定める。

第二事案の概要

一  債権者の主張の要旨

(争いのある権利関係)

1 平成五年一〇月一六日、債権者は、債務者のサービス課介添人として債務者に雇用された。

2 平成六年一一月二四日、債務者は、債権者に対し、文書で衣装係への配置転換(業務内容は、アイロン掛け)を通告した。

3 右配置転換は、次の理由により無効である。

(1) 債務者は、債権者を結婚式場新婦介添人として採用したものであり、債権者も研修については介添人としての研修しか受けていないし、右配置転換に同意をしていない。

(2) 介添人業務は、主に、土曜、日曜、祭日等に行われるところ、債権者は、これを前提に採用された。しかし、アイロン掛け業務は、平日に行われることから、右配置転換により、債権者は、生活形態が著しく変化することとなり、生活にも支障をきたすこととなる。

(3) 介添人の賃金は、時給一〇〇〇円、六か月毎に五〇円昇給で最高一三〇〇円であるところ、アイロン掛け業務の賃金は、時給八〇〇円、二八〇時間従事した後五〇円昇給にすぎず、収入が減少する。

(4) これらの重大な労働条件の変更は、労働者にとって、精神的、肉体的に苦痛を伴い、使用者が一方的にこれを行うことは、人事権の濫用であり、無効である。

4 債務者は、債権者と債務者との間の雇用契約(以下「本件契約」という)につき、労働基準法二一条一号の「日々の雇い入れ」と解するようであるが、債権者としては、毎月の仕事を継続して勤めているものと信じているものである。

(保全の必要性)

債権者が右命令を拒否し続ければ、解雇のおそれもあり、債権者にとって、回復し難い損害を受けることとなる。

二  債務者の主張の要旨

(争いのある権利関係)

1 本件契約につき具体的にいえば、債務者は、あらかじめ介添人につき、依頼要員をリストアップしておき(被用者側からいえば、債務者に対し、要員として登録することとなる)、毎月一五日までに右要員らから翌月の土曜、日曜、祝日の内、勤務不可能日等の連絡を受け、これをもとに翌月のシフト表を作成して、右要員らに交付する(その後、右要員らから変更希望があれば、振り替えを行う)。右において、雇用契約が成立する時点は、債務者がシフト表を交付し、各介添人がこれに応じた時である。したがって、本件契約は、労働基準法二一条一号の「日々の雇い入れ」の形態がさらに間延びした形である。

2 したがって、本件契約は、債務者の最終勤務日である平成六年一〇月二九日をもって、終了しているものであり、それ以降、債権者と債務者との間には何らの法律関係も存しないのであるから、配置転換の通告は、雇用関係を前提としたものではなく、法律的にいえば、介添人からアイロン掛けへの登録換えを通告したものにすぎない。債務者としては、同年一一月以降のアルバイト依頼を停止すれば済んだことであったが、できるだけ穏当な対応を計らんとして配置転換の通告を行ったものである。

3 以上、債権者債務者間に雇用関係は現存せず、右法律関係を前提とする本件申立は理由がないというべきである。

4 仮に、債権者債務者間に雇用関係が現存しているとしても、その配置転換は、介添人としての職務不適応という判断のもとになされたものであり、正当なものである。

(保全の必要性)

債務者は、債権者に対し、定期的勤務や一定額の給与支給を約したものではなく、債権者は、前記シフト表が作成され、これに対し、債権者が応諾するまでの間は、いまだ法律的権利を有しているとはいえず、期待的権利を有しているにすぎない。そこに保全されるべき利益は存しない。

三  争点

1  本件契約は、終了しているといえるか。

2  仮に、本件契約が継続していると評価することができるとすると、本件配置転換は無効といえるか。

第三当裁判所の判断

一  本件疎明資料によれば、以下の事実が一応認められる。

1  債務者は、婚礼宴会施設を有するホテルであり、婚礼宴会の開催を業としているところ、宴会は、曜日や季節等に偏りが生じるため、花嫁の介添人については、相当数のアルバイト要員を確保する必要があった。そこで、債務者は、予め、土曜、日曜、祝日に依頼できるアルバイト要員を募った(その際、面接が行われる)うえ、毎月一五日までに、右要員らから、都合の悪い日の連絡を受け、それを前提に、債務者の側で、翌月の土曜、日曜、祝日の予定表を作成し、これを右要員らに渡すこととし、これにより、翌月の右要員の勤務日が決定される方式をとっている。なお、右要員らの内、いつ誰を勤務させるかの決定(すなわち、右予定表の作成)は、専ら債務者側の裁量によるものであり(もっとも、右予定表が作成された後も、勤務日にどうしても都合がつかなくなった場合は、交代が許されたようである)、したがって、右要員らが平等の勤務機会を得るというものではない。なお、賃金は、時給一〇〇〇円で、半年ごとに五〇円の昇給で最高は一三〇〇円である。

2  債権者と債務者との間の本件契約も、右と同様の内容のものであり、債権者は、平成五年一〇月一二日に、面接を受け、同月一四日から右介添人としての勤務が始まっているところ、勤務日数については、同月が六日、同年一一月が八日、同年一二月が四日、平成六年一月が三日、同年二月が五日、同年三月が四日、同年四月が二日、同年五月が四日、同年六月が三日、同年七月が二日、同年八月がなし、同年九月が八日、同年一〇月が九日である(その最終日は同年一〇月二九日である)。

二  以上の事実を前提に検討する。

本件契約は、前記のとおり、正社員と同一の労務に従事しているとの実態もなく、現実の勤務についても、専ら、債務者の指定する日に勤務することとなっており、その結果、右要員らは、平等の勤務機会が保証されているとはいえず、勤務機会が全くないこともあり得るものである。現実に債権者の勤務状況も、各月によってばらつきが見られる。

以上の勤務形態に照らせば、本件契約は、単発のアルバイトにやや継続性を持たせたものにすぎず、労働基準法二一条一号に該当するものであるというべきである。

三  したがって、本件契約はその最終勤務日である平成六年一〇月二九日をもって終了している。配置転換は、そもそも問題とならないという債務者の主張は相当である。結局、争いのある権利関係についての疎明がないから、主文のとおり決定する。

(裁判官 村田文也)

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